「薬をやめれば病気は治る」の本の中でも鎮痛剤の危険性が書かれておりますが、今回は私の約40年の臨床経験で発見した事実に基づいて痛みの本質を明らかにし、その対処法を述べます。
痛みの本質をご理解いただくために、以前の症例を一つご紹介します。
これは珍しくない平凡な症例なのですが、痛みの本質をご理解いただくのに適当と思われましたので取り上げます。
《2012/12/5 34歳女性 腰痛》
以前に2回腰痛で2回来院したことがあり、その都度1回の治療で治ったそうです。
その後ずっと症状は無かったけれども、最近肺の疾患で入院し、寝ていたら又腰が痛くなりました。
前日が日曜日が当院は休診だったので、他の鍼灸院に行ったが効果がありませんでした。
脈診すると肺だけでなく、肝に負担が掛かっています。
この場合回復力が集中している肺と肝を治療しないで腰だけの治療をしても、効果があっても一時的になります。
肝は入院中に抗生物質の点滴をしていたためにその解毒で負担が掛かっていたと思われます。
肺は退院したので治っている筈だと思われるかも知れませんが、結果が治っただけで肺疾患になった原因は取れていないのです。
肺と肝が回復力によってもっと効率よく治せる様にその障害を取り除けば、回復力は腰にも回る様になって治って行きます。
治療はまず背部に肺と肝の気の流れを良くするための治療点を見つけて刺入鍼、次に肺と肝への神経伝達が正常化する様に胸椎を矯正しました。
この時点で肺と肝そして患部(腰)を触診するとそれらに回復力が十分に働く様になったことが確認出来ました。
本人にも聞くと(腰が)随分楽になったそうです。。
(ここまで患部の腰は一切治療していないことにお気付きいただきたいと思います。)
最後に腰に回復力がフルに働く様に、腰に刺入鍼をしました。
治療後症状は完全に消失しました。
私はこの人の肺と肝、そして結果的に腰に回復力が効率よく働く様にしただけで、症状を直接的に取る治療は一切しておりません。
この症例から分かる様に、結論から言いますと、「悪いから痛い」のではなく、「悪いのを治す回復力が足りないと痛い」のです。
痛みとは、悪い所を治す回復力が足りないことを知らせる信号であり、体が「回復力が足りないよ!」と叫んで”気を引く”意思表示なのです。
回復力がそこに十分働く様になって、そのままで治って行くことが確かになると、悪い所が治っていなくても体は痛みを発信するのをやめます。
赤信号が青信号に変わったと言うことです。
私はこの法則の例外に遭遇したことがありません。
このことから鎮痛剤で痛みを消すということが愚かな行為であることが分かります。
もちろん外科手術の時とか事故後など救急の時は例外ですが、多くの人が患う頭痛とか腰痛を始めとした各部の痛みを鎮痛剤で消したり、もみほぐして症状を和らげ様とすべきではありません。
痛みの患部への回復力の流れを妨げている原因を取り除くという処置が的確に行われたかどうかを判断するために、痛みという信号は最後まで消さずに取っておくべきです。
そこでまず、痛みの原因である回復力不足が何故起こるかを明らかにします。
なおここでは”回復力”という言葉を使っておりますが、以下の文章を読むに当たっては”生命力”という言葉の方が理解し易いかも知れません。
回復力には以下のような法則があります。
【回復力には働く優先順位がある】
① 私達の体には”一定量”の回復力があります。
② この”一定量”は下記の要因で減少して行きます。
・加齢
・医薬服用
・緊張波動、そしてその結果生ずるカイロプラクティックで言う”サブラクセイション”(いわゆる背骨のズレ)と東洋医学で言う”気の滞り”
・その他
③ この”一定量”の回復力では不足する状況になって来ると、回復力が優先的に回される部位と、回復力が削減される部位とが出て来ます。
<回復力が回される優先順位>
⑴ 事故や手術によって傷が出来た場合、その修復
⑵ 病原微生物が侵入した場合、それらに対する攻撃・防御
⑶ 意識的な動作(立ち上がる・歩くなど、意志が強ければ⑴に成り得る)
⑷ 食べた物の消化
⑸ 内蔵等生命維持のために重要な器官の歪みの修復
⑹ 日々の生活による疲労の回復
⑺ 肩・腰・膝等の運動器系、さらに目・耳・鼻等の五官等、生命維持のために重要でない器官の修復
【回復力が少なくなると重要でない部位から順番に回復力が行かなくなる】
これらの内⑴⑵はそう頻繁に遭遇することはないので、平時は⑶以下で回復力をやり繰りすることになります。
若い内は蓄積された歪みも少ないですし、回復力も十分にありますので、⑶~⑺のすべてに回復力を供給することができます。
ところが、個人差はありますが、30~40歳を過ぎると、下記のことが起こり始めます。
・年を重ねるにつれ、修復すべき歪みが多くなってくる。
・年を重ねるにつれ、回復力が少なくなってくる。
この結果持っている回復力ですべてを賄うことができなくなり、優先順位の低い方から順番に回復力の供給が少なくなってきます。そして症状が出始めます。
まず始めに⑺、すなわち肩こり・腰痛等が出ます。
次に⑹、すなわち「寝ても疲れがとれない」、という症状が出ます。
この段階で生活改善や根本的な治療が施されないと、しばらくしてから⑸、すなわち内蔵疾患に見舞われます。一般に成人病と呼ばれるものです。
以上のことから、肩こり・腰痛等が出た時点でそれを消すのではなく、回復力低下の原因を見定め、的確な処置を施すことが真の健康を築き上げ、寿命を全うするための重要なポイントと言えます。
携帯電話の電磁波を処理するだけで治らなかった痛みが解消するという事例は枚挙にいとまがありませんが、そう言ったほとんどの人々が問題意識なく使っている物も含めて回復力を妨げる物事が沢山あります。